自宅を仕事場にしている個人事業主・フリーランスの方から、「家賃や光熱費はどこまで経費にできるのか」というご質問を多くいただきます。
結論からお伝えすると、自宅兼事務所の家賃を全額そのまま経費にすることはできませんが、仕事に使った割合分だけを切り出して必要経費にできます。これを「家事按分(かじあんぶん)」といいます。カギになるのは割合そのものではなく、「なぜその割合なのか」を説明できる根拠です。この記事では、家賃・光熱費・通信費の按分の考え方と、持ち家の場合の注意点を整理します。なお、本記事は個人事業主・フリーランス・副業の方向けの内容で、法人の自宅兼事務所は別のロジック(役員社宅・借上社宅)での整理が必要です。
家事按分とは|仕事に使った割合だけ経費にできる
家賃・水道光熱費・通信費などは、生活と仕事の両方にまたがる支出です。丸ごと経費にはできませんが、仕事に使った割合分だけを必要経費に算入できます。根拠は所得税法第37条と所得税法施行令第96条で、家事関連費のうち事業の遂行上必要であることが明らかに区分できる部分だけを必要経費にできる、という考え方です(経費全般の考え方はカフェ代・スーツ・ランチの経費の判断基準もご覧ください)。ポイントは次の3つです。
- 事業(仕事)で使っている割合を合理的に出すこと
- 割合の根拠を、いつでも説明できるようにしておくこと
- 同じ方法で毎年計算すること
家賃の全額計上は不可|按分が必須
自宅は生活の場でもあるため、賃貸マンションやアパートの家賃を丸ごと必要経費にすることはできません。全額経費にできるのは、仕事専用に借りている事務所など、プライベート利用がまったくない物件に限られます。仕事用に独立した部屋を借り、生活には一切使っていない場合は全額経費にできるケースがありますが、その場合でも事業用に契約していること、私物が置かれていないことなど、実態と契約が一致している必要があります。
按分割合の出し方|面積と時間の2つの方法
面積で按分する方法
自宅の延床面積60㎡のうち仕事専用の部屋が12㎡なら、仕事使用割合は12÷60=20%です。家賃が月8万円なら月1万6,000円を必要経費に計上できます。もっともシンプルで、税務調査でも説明しやすい方法です。
時間で按分する方法
ダイニングテーブルなど生活と兼用のスペースで仕事をしている場合は、1日のうち仕事に使っている時間の割合(例:1日8時間/24時間=約33%)で考えます。面積×時間を組み合わせて按分する方法もあります。いずれの場合も、間取り図・タイムスケジュール・写真など、後から説明できる資料を残しておくことが大切です。
割合は自分で決められるが、根拠が必要
家事按分の割合は、税法で「何%にしなさい」と決まっているわけではなく、事業者本人が合理的な方法で計算します。ただし税務調査などで「なぜその割合なのか」を聞かれたとき、根拠を示せないと否認されることがあります。「とりあえず50%」では合理的な根拠とは認められにくいのが実情です。
- 間取り図と床面積の計算(仕事専用の部屋の面積÷自宅全体の面積)
- 作業時間のスケジュール表(平日9時〜18時を仕事に使用、など)
- 仕事用の机・PC・棚の配置がわかる写真・配置図
- なぜそのスペースが仕事に必要かという業務内容との関連
PC1台で完結する仕事と、商品の保管が必要な物販業では、必要なスペースの割合が異なります。業務の実態に合わせて説明できる割合を出すことがポイントです。一度決めた割合は、できるだけ毎年同じ方法で計算しましょう。
光熱費・通信費も按分で経費にできる
水道光熱費・電気代・ガス代・インターネット代・携帯電話代なども、事業使用割合分だけ必要経費にできます。家賃と同じ按分割合を使うか、業務実態に合わせた別の割合を使います。
- 電気代:仕事用機器(PC・プリンター等)の使用分を按分。シンプルには家賃と同じ割合を使うことが多い
- 水道・ガス代:仕事との関連性が薄いと否認されやすい項目。業務関連性を説明できない場合は慎重に
- インターネット代:仕事でほぼ常時使うなら80%前後を経費にするケースもある(実態次第)
- 携帯電話代:通話履歴・データ通信の使用実態に応じて按分。仕事専用回線なら全額経費が可能
領収書・明細書は必ず保管しておきましょう。仕事専用の回線・契約に切り替えると按分計算が不要になり、税務上も整理しやすくなります。
持ち家(住宅ローン)の場合の注意点
持ち家の場合、住宅ローンの元本返済は資産取得の対価なので必要経費にはなりません。必要経費にできるのは、事業使用割合に応じた建物の減価償却費、住宅ローンの支払利息、固定資産税、火災保険料、修繕費・管理費などです。
また、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)には居住用部分が床面積の50%以上といった要件があり、事業使用割合を大きくしすぎると控除が制限されることがあります。持ち家のケースは控除との兼ね合いで損得が変わるため、事前に税理士へ相談するのが安全です。
法人の自宅兼事務所は「家事按分」を使わない
法人の場合は家事按分という考え方は使わず、会社が法人契約に切り替えて借上社宅にする、会社が賃貸料相当額を社長から徴収する(徴収しないと給与扱いになって課税)といった整理になります。法人で自宅を事務所にしている方は、個人とは別のロジックになる点にご注意ください。
まとめ|家事按分は「根拠」が命
- 賃貸の家賃の全額計上は不可。必ず按分する
- 仕事スペース分だけ按分計上。面積・時間で合理的に
- 割合は自分で決められるが、合理的な根拠が必要
- 光熱費・通信費も実態に合わせた割合で按分できる
割合を合理的に出せているか、根拠を資料で示せるか、毎年同じ方法で計算しているか。この3つを意識すれば、家事按分は安心して使える制度です。牧野会計では、税務・会計顧問のなかで按分割合の設計と記帳の整理を支援しています。自宅の何%まで経費にできるか迷ったら、無料初回面談でご相談ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する税務アドバイスではありません。記載内容は2026年6月時点の制度・税制にもとづきます。