オフィスや店舗、住まいのオーナーが海外在住だった場合、「家賃をそのまま満額振り込んでよいのか」という疑問が生じます。実は、支払う側である借主に税金を天引きする義務が生じることがあります。
結論からお伝えすると、オーナーが「非居住者等」に該当する場合、借主は家賃の20.42%を源泉徴収して国に納める義務があります。不動産を購入する場合は譲渡対価の10.21%です。例外は、個人が自分または親族の居住用として借りるケースなどに限られます。2026年6月には国税庁が「非居住者等による不動産取引等に関するリーフレット」を公表しており、借主・買主側の源泉徴収漏れが問題視されています。見落とすと追徴課税や加算税の対象になる可能性があるため、この記事で対象・税率・例外を整理します。
借主に源泉徴収義務がある仕組み
日本の税法では、非居住者等(海外に生活拠点がある個人や、海外にある法人)に国内の不動産にかかる支払いをする際、支払う側(借主・買主)が源泉徴収して国に納める義務があります。非居住者等が日本の税務署に自分で申告するのが難しいため、日本国内にいる支払者が代わりに徴収する仕組みです。対象となる支払いは主に2種類です。
- 不動産の賃借料(家賃)→ 20.42%
- 不動産の譲渡対価(購入代金)→ 10.21%
対象の判定|「非居住者等」かどうかは生活拠点で決まる
非居住者(個人)とは、日本国内に住所がなく、かつ現在まで引き続き1年以上居所がない個人をいいます。外国法人とは、日本国内に本店または主たる事務所を置かない法人です。オーナーが日本人か外国人かではなく、生活拠点・本店の所在地で判定されるため、日本国籍でも海外在住が長ければ非居住者に該当することがあります。
実務で確認するポイント
- 賃貸借契約書に記載されたオーナーの住所(海外か国内か)
- 家賃の振込先が海外口座になっていないか
- オーナーの連絡先が海外になっていないか
- 管理会社経由の場合、その管理会社の立場(集金代行か、サブリースか)
管理会社に支払っている場合でも、管理会社が単なる集金代行・代理受領にすぎず、実質的な貸主が非居住者等である場合には注意が必要です。国内法人等がサブリース会社として自己の賃貸人の立場で賃料を受け取っている場合は、借主から見た支払先・契約関係を確認して判定します。
家賃の源泉徴収は20.42%|翌月10日までに納付
2026年時点の内訳は、所得税20%+復興特別所得税0.42%(20%×2.1%)です。令和9年(2027年)1月以後は防衛特別所得税の創設等により内訳は変わりますが、合計税率20.42%自体は変わりません(10%部分の10.21%も同様)。借主が家賃から天引きし、原則として翌月10日までに納付します。納付書は「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」を使用します。
たとえば家賃が月20万円の場合、源泉徴収額は20万円×20.42%=40,840円、オーナーへの実際の送金額は159,160円となり、借主は40,840円を翌月10日までに納付します。
よくある間違い
- 消費税との混同:源泉徴収は所得税の話で、消費税とは別に計算します
- 契約書に源泉徴収の記載がなくても、法律上の義務は借主にあります(源泉分をオーナーに負担させないよう金額を増やす「グロスアップ」契約になっているケースもあります)
- オーナーが日本の税務署に開業届などを出している場合でも、非居住者ならこのルールが適用されます
例外は「個人の居住用」|法人契約は常に対象
個人が自分または親族の居住用として借りている場合は、源泉徴収は不要です(所得税法施行令第328条第1項)。免除されるのは、借主が個人であること、物件を自分または親族の居住用に使うこと、事業用ではないことのすべてを満たす場合です。
- 法人が借りる場合(役員社宅・借上社宅含む)→ 常に源泉徴収の対象
- 個人が事業用テナント(オフィス・店舗)として借りる → 対象
- 個人が転貸・民泊用に借りる → 対象
- 自宅兼事務所 → 業務使用部分の考え方次第のため慎重に判定
不動産を購入した場合は10.21%
非居住者から国内不動産を購入する場合、譲渡対価の10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)を買主が天引きし、翌月10日までに納付します。個人が自己または親族の居住用に購入し、譲渡対価が1億円以下の場合は源泉徴収不要です(施行令第281条の3)。海外オーナー物件を購入する機会は増えており、決済時には司法書士・不動産会社と源泉徴収の処理を確認することが大切です。
源泉徴収を怠ると支払者側にペナルティ
借主・買主が源泉徴収を怠った場合、不納付加算税(原則10%。自主納付なら5%、または要件を満たせば免除)や延滞税が発生します。事実の隠蔽・仮装があるような場合には重加算税の問題になることもあります。満額支払ってしまい後から納付した場合でも、国税庁のリーフレットでは原則としてその後の賃料から控除したり貸主・売主へ請求できる場合があるとされていますが、海外への求償は実務上ハードルが高いため、入り口で正しく源泉徴収するのが安全です。
まとめ|契約書と振込先を一度確認する
- 対象:非居住者オーナーから国内不動産を借りている・買った場合
- 税率:家賃20.42%/譲渡対価10.21%
- 例外:個人が自己・親族の居住用に借りる場合は不要(購入は1億円以下も条件)
詳しくは国税庁のパンフレット「非居住者等が不動産等を賃貸・譲渡した場合の確定申告」もご参照ください。牧野会計では、税務・会計顧問のなかで契約書・支払いフローの確認から納付書の作成までを支援しています。オーナーが海外在住かもしれないと感じたら、無料初回面談でご相談ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する税務アドバイスではありません。記載内容は2026年6月時点の制度・税制にもとづきます。